40代社会人大学院生、博士を目指す。

岡山を拠点とする年齢的にも経済的にも余裕のない社会人が、少しでも研究実績を積み上げようとあがいています。

宮尾登美子の小説で高知を味わう『鬼龍院花子の生涯』『櫂』

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今週のお題「好きな街」、私は高知です。

仕事の取材で定期的に行きますが、魚や野菜は安くておいしく、海、山、川と自然溢れる風景を堪能できます。また、天守を頂く高知城の周辺に広がる高知市街地は、町割りなどに城下町の面影を残していて路地散策も楽しいものです。

 

そんな高知出身の作家が宮尾登美子です。宮尾は戦前の高知を舞台にした小説をいくつか執筆しており、当時の風景を丁寧に描写しています。

 

たとえば、夏目雅子主演の同名映画で有名な『鬼龍院花子の生涯』の冒頭。

 浦戸湾の水を引いた掘割は、海岸通り、稲荷町、農人町の岸をうるおしながら高知の市街地に入り、四つ橋で分れて一方は新京橋の盛り場へ、一方は納屋堀の行きどまりに落着く。

 三方を道路にかこまれた納屋堀は満潮時には道すれすれまで水が満ち、そこにもやっている大小の漁船を高く高く、威勢よく持上げてみせる。市街地のなかに満願鰤の漁船が並ぶのは、この岸のまわりに古くからの大小の魚市場が並んでいるためで、それにもう一つ、界隈に風情を添えているものに樹齢千年といわれる樟の大樹がある。

今では高知市街地に魚市場はなく、堀も埋め立てられて船など見当たりませんが、この小説を読むと高知が海に近い河口にある街ということがよく分かります。

 

自伝的小説とされる『櫂』の最初のあたり。

 楊梅(やまもも)は、土佐の海岸地方に生る特有の果実で、思わず頬を絞るほどの美味さがある代り、これほどに傷み易いものはないといわれている。朝捥いだ実は昼下がりにもう汁が滲んで饐え始め、じき蚊つぼが立って夕方には異臭を放ちだす。出盛りの季節もまた極短いもので、ぱっといちどきに木が黒むほど熟れたかと思うと、僅かな風にもぼたぼたと首を振って落ちてしまう。

高知のやまももの有り余るみずみずしさを感じずにはいられません。めくったページから甘い香りが匂い立ってきそうなほど。

 

宮尾の小説には当時の高知の厳しい部分もかなり描かれていますが(というかそちらがメイン)、それでも上記のような箇所を読むと高知の街を歩き、新鮮な魚や果物を頬張りたくなります。

特に、やまもも。