40代社会人大学院生、博士を目指す。

岡山を拠点とする年齢的にも経済的にも余裕のない社会人が、少しでも研究実績を積み上げようとあがいています。

豊島八百万ラボ(スプツニ子!)で蚕に驚く【瀬戸内国際芸術祭2016】

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先週、香川の豊島(てしま)にオープンした、豊島八百万ラボ(スプツニ子!)。瀬戸内国際芸術祭2016の作品の一つにもなっています。

benesse-artsite.jp

以下、サイトからの引用です。

豊島の南西、海辺に位置する甲生地区につくられた「豊島八百万ラボ」。
アーティスト・スプツニ子!が構想した、先端科学とアートとのコラボレーションにより、新たな神話をうみだそうとする施設です。都市から離れた、豊かな自然に恵まれた場での体験は、科学の進歩と共に歩む私たちの未来に、新たな視点を提示していく機会となっていくでしょう。 

映像作品に登場する蚕は、農業生物資源研究所の協力によって、人が恋におちる成分とも言われているオキシトシンと、赤く光る珊瑚の遺伝子を導入して実際に誕生したハイブリッド。近年の生命工学の発展により、神話のように人や動物種の境界概念は曖昧になってきています。ガリレオの地動説やダーウィンの進化論など、時に神話に疑問を投げかけてきた科学が、近い将来には神話を創造し具現化していくのかもしれません。

この作品では、糸を生み出す生物として蚕が登場します。作品を見ている間、私は蚕のことばかり考えていました。

 

蚕を飼育し、その繭(まゆ)から生糸を作るのが養蚕(ようさん)です。特に明治以降、日本全国で養蚕が盛んになりましたが、瀬戸内海の島ではさほど行われていなかったようです。

地域で展開するアートは、場の文脈、たとえば歴史や社会問題などを作品に取り入れがちです。ただ、文脈のとらえ方が上澄みだけで、深みのないものも散見されます。文脈を踏まえても作品に「出口」が見当たらないようなものも。

豊島八百万ラボの蚕(養蚕)は、豊島の産業としての文脈上にはないようです。おそらく。文脈の表層だけ取り入れるくらいなら、本作品のように潔く切り離してしまうほうがいいのかもしれません。

 

そして、その養蚕は近年注目を浴びています。

「天の虫のおきみやげ」(山梨県立博物館)「カイコとくらした昔」(府中市郷土の森博物館)など、博物館では立て続けに養蚕の展覧会が開催されています。

 

また、昨年末に刊行された『蚕 絹糸を吐く虫と日本人』(畑中章宏著)は、民俗学的な視点で養蚕業とその背景を広く掘り下げている本です。文章の読みやすさも手伝って、忘れられつつある養蚕について再認識させてくれます。

少なくとも私は養蚕の現場を見たことがないので(小学校の授業中に本物の蚕を見たことがある程度)、本書は教養としての知識欲を相当に満たしてくれました。

 

この養蚕ブーム(?)には富岡製糸場世界遺産登録が影響しているのでしょう。

いずれにしても、豊島八百万ラボで重要な役割を与えられた蚕を見て、時流を踏まえた点に驚いたのです。

 

瀬戸内国際芸術祭2016を楽しむならこちらも参考に。

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