40代社会人大学院生、博士を目指す。

岡山を拠点とする年齢的にも経済的にも余裕のない社会人が、少しでも研究実績を積み上げようとあがいています。

「かぐや姫の物語」も参考にしたという40年前の記録映画「奥会津の木地師」

早朝、岡山を発って高知へ。民族文化映像研究所が1976年に制作した映画「奥会津木地師」の上映会に参加するためです。本映画は、スタジオジブリかぐや姫の物語」の参考にされており、ほぼ同構図のシーンが登場します。

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木地師とは

木地師とは、漆椀の元となる木製の椀を製作する人たちのことです。木地師は材料となる木を求めて移動しながら椀の製作に関わっていました。ちなみに、この映画の舞台となっている福島県の奥会津・針生では、木地師は「木地さん」と呼ばれています。針生では、昭和20年代まで木地師がいたもののその後は途絶えており、この映画に登場する80代の男性をはじめとする木地師の家族が、50年間行っていなかった技術を再現しているのです。驚嘆すべきは、50年間の空白を感じさせない木地師の精巧な技術です。

 

木地屋敷を4日で建てる

さてこの映画、木地師による木の加工から追いかけるのかと思いきや、木地師の作業場兼住居である建物―木地屋敷の構築から始まります。

針生の集落に木々に囲まれた山の中で平坦な場を設けて、周囲の木を切って揃えて柱を建て、天井を組み、屋根の骨組みを掛けます。壁と屋根に用いるのは笹です。床にのみ数枚の板を張りますが、木地師が次の場所へ移動する際、この板のみ持って行きました。建物の他の部材は周囲の木や笹ですが、加工した板は貴重だったのかもしれません。また、より高い場所にある川から水を引いてくるため、地面を掘って水路を設けます。途中の崖には、1本の木に溝を彫って樋としたものを渡します。

木地屋敷の完成まで4日間。この部分だけでも十分に観る価値がありますが、まだ本題に入ってないのです。

「奥会津の木地師」より「木地小屋つくり その1」(動画 民映研Facebookページ)

 

ブナから椀の荒形を切り出す

木地屋敷完成後、木地師の男性は山に入り、大きなブナをヨキ(斧)で切り倒します。その切り倒し方が素晴らしく、切った箇所がほとんど裂けていません。1人の作業で大木を切り倒すまで4時間とのこと。

切ったブナを曲りヨキという斧で加工し、椀の荒型を次々に切り出します。ナレーションでもありましたが、曲りヨキという斧の扱いは慣れていないと難しいようですが、木地師は狙った部分に確実に刃を入れて、いとも簡単に椀の荒型を作り出します。その数、1日で240個と言います。

 

女性による椀の成形

木地屋敷の中では2人の女性が手斧で荒形を加工します。1人は外形を整えます。もう1人は中をくり抜くのですが、この作業の場面では会場から驚きの声が上がります。直径20cm弱の粗型を両足で挟んで固定し、荒形に向かった手斧を振り下ろします。数cmずれれば手斧は足に当たってしまう状況ですが、やはり手斧のコントロールは正確で椀の内側が成形されていきます。

 

手動ロクロによる成形

男性の木地師は、簡単な鍛冶でカンナの刃を整えます。ある程度成形された椀をロクロに固定し、別の男性が縄を使ってロクロを回します。鉄の棒に巻きつけた縄の両端を交互に引くことで鉄の棒を回転し、ロクロが回るのです。そのため、回転も交互になります。

カンナを持った男性は、ロクロで回転する椀に刃をあてて最後の成形を行います。

完成した椀は馬に背負わせて集落に運ばれます。その後、会津などで漆椀として流通したようです。

民映研フィルム作品紹介No.5 奥会津の木地師(動画 民映研Facebookページ)

 

制作チームの熱意を感じる

制作から40年経った今、この工程を実際に見ることは不可能でしょう。日本列島から失われてしまった技術とも言えます。

映画には失われてしまった技術の各工程が「記録」として詳細に丁寧に収められています。数十年前まで続いてきた技術を知るうえでの資料的価値は誰もが認めるところでしょう。この映画が高く評価されているのは頷けます。

また、当時、すでに50年間行っていなかった木地師に椀の製作を依頼したのは、制作チームの熱意なのでしょう。もちろん、それに応えられるだけの技術を、木地師家族と針生の人たちが備えていたことが前提ですが。演出を担当していたいた姫田忠義氏のナレーションは淡々としていますが、それだけに対象と向き合う誠実さが伝わり、データや自身の経験に基づく補足を織り交ぜる点には、記録として後世に伝える役割を担う強い意思が感じられます。


高知で続けられる上映会

定員50人程度の会場でしたが1500円の入場料でほぼ満員。地方開催でエンターテイメント性の少ない(一般的な。別の意味でエンターテイメント性は高いように思いますが)映画でこれだけの人が詰めかけるとは驚きです。

上映会の最後に、姫田忠義氏の息子さんである姫田蘭氏のお話がありました。民映研の上映会は各地で開催されていますが、高知はその中でも最も古く長く続いているとのこと。それは高知上映会の主催者の方と忠義氏が古くからの知り合いであったからだそうです。

高知で上映会が継続され、これだけの人を集められるのは、姫田親子の思いを汲んでいる主催者の活動にあると思われます。次回の上映会には、また高知にまで足を運びます。



最後に、ダイジェスト版のリンクを再度貼っておきます。長々と書いてきましたが、短時間でも映像を観れば木地師の凄さと制作チームの熱意が伝わるはずです。本編は55分ですが、まったく飽きることはありませんでした。

 

「奥会津の木地師」より「木地小屋つくり その1」(動画 民映研Facebookページ)

民映研フィルム作品紹介No.5 奥会津の木地師(動画 民映研Facebookページ)