40代社会人大学院生、博士を目指す。

岡山を拠点とする年齢的にも経済的にも余裕のない社会人が、少しでも研究実績を積み上げようとあがいています。

それぞれの社会に適した経済のしくみがある『「その日暮らし」の人類学』(小川さやか著)

待っていた本をようやく購入、夕食後に最後まで読んでしまいました。

『「その日暮らし」の人類学』(小川さやか著)は、「Living for Today―その日その日を生きる―」をキーワードとして、経済、社会の状況をしくみを問い直す新書です。

 

以下はプロローグで述べられた著者の執筆目的です。

本書のもう一つの狙いは、Living for Today を前提として組み立てられた経済が、必ずしも現行の資本主義経済とは相いれないものではないことを示すことにある。

著者は続けます。

わたしたちが忘却しようと苦悩している「その日暮らし」を、自然とともにある豊かさとして認めたり、オルタナティブな生き方として求める研究は、たいていの場合、資本主義経済、とくに新自由主義的な市場経済へのアンチテーゼを標榜する。
しかし、こうした二項対立図式をよそに、Living for Today に立脚する経済は現在において拡大し、主流派の経済システムを脅かす、もう一つの資本主義経済として台頭している。

 

本書をTwitterで知ったのですが、TLに流れてきたタイトルを見てまず頭に浮かんだのは『石器時代の経済学』(マーシャル・サーリンズ著)でした。大学生の頃に『石器時代の経済学』を読んで狩猟採集民が一日の大半をおしゃべりなどで過ごしいても十分生活できることに衝撃を受けました*1。社会や経済を単線的な発展(乱暴な表現ですが)では語れないと感じたのです。

サーリンズが対象としたのは狩猟採集民ですが、農耕民や近代以降の社会を考えるうえでも『石器時代の経済学』の視点は頭のどこかに置いておく必要があると思っています。狩猟採集民の社会をあるべき姿だと賞賛するのではなく、ぞれぞれの社会に適したモデルがあるのでは、ということです。

そうした意味で、現代において「主流派の経済システム」でもなく、サーリンズが明らかにした社会でもない経済システムを見せてくれる本書(『「その日暮らし」の人類学』)は示唆に富んでいます。

 

*1:本書でももちろん『石器時代の経済学』には触れています。